1+1=2の証明って難しいらしいけど本当に?
1+1=2って当たり前でしょ?そもそも証明をする必要があるの?
ということで、今回のテーマは「1+1=2」についてです。
ちなみに上記の疑問にパッと答えるならばこちら。
はい、ということで証明はしなくとも問題ありませんし、知らなくとも問題ありません。
もっと言えば、「1+1の答えは2である」というものだと考えてしまっても何の不都合もありません。
しかし、1+1=2の証明は確かに存在します。
この証明を詳しく知りたいという人は、少々心の準備をしたうえで記事を読み進めてください。。。
証明をそのまま載せても良いのですが、何が書いてあるのか良くわからないかもしれませんので、
順番に話を進めていきたいと思います。
ちなみに、今回は証明の前置きで終わります。証明だけ見たい方は、後編へどうぞ。
そもそも証明をする必要があるのか
今回の証明は「当たり前に使っていたものをもっと厳密に掘り下げて考える」という内容です。
「1」とは何? 「2」とは何? 足し算とは何?
まずは小学校の算数に戻って考えましょう。
小学校の「さんすう1」では、教科書にいろいろな絵が並んでおり、その個数を数えて数字を覚えます。
このイラストはリンゴが「1」個。
このイラストではリンゴが「2」個。
このように果物や動物、花などの絵をみて、その個数から数字(自然数)を学びます。
中には「毛の長さが違うサル」や「色が違う花」のように見た目が違うものも出てきますが、
同じ「サル」として数える、同じ「花」として数えるということも学びます。
そして、最初にリンゴが置いてあり、あとから別のリンゴを近づけるイラストをつかって足し算の説明が入ります。
「はじめに リンゴが 1こ あって 1こ ふえると 2こに なります」
これが、算数での内容です。違和感はないと思います。
皆さんはこれを受け入れ、数字や足し算を違和感なく扱うことができたわけです。
しかし、厳密に考えようとするとこれでは不十分なわけです。
例えば、絵やものを使った説明が使えないと考えてください。言葉だけでこれを伝えられますか?
どうやって「1」を伝えればいいでしょうか。
どうやって「2」を伝えればいいでしょうか。
「足し算」はどうすればよいでしょうか。
「1」と「1」を足し算したら、本当に「2」になっているのでしょうか。
そして、それは常に正しいと言えるのでしょうか。
目で見ればすぐにわかるものでも、言葉で説明することは難しいですね。
1+1=2を誤解の無いように伝えるのは大変です。
ちなみに、数の「1」は広辞苑で次のように説明されています。
これって答えになってるの・・・?
広辞苑にケチをつけるつもりはないです。この説明はいたって正しいです。
つまり、何が言いたいのかというと、
証明を進めるには、自然数を正しく理解する必要がある。
キーワードは自然数です。
自然数とは
自然数とは、ものを数えるときに用いる数です。1,2,3,4,5,・・・と続きます。
※高校数学までは「1」が最小ですが、大学数学では「0」を自然数に含めることもあります。
個数を表すものと考えてもよいでしょう。先ほどの算数でも、ものの個数で教えていることがわかります。
教科書などは大体このような説明がされています。
数字を知っている我々には、これで伝わりますね。
自然数の説明の中に足し算のことが書かれてるけど・・・
そうです。ここまでの説明は「数字や計算を知っている前提」で話しているのです。
本当に何も知らない、数字や四則計算を知らないとしたとき、自然数ってどのように説明できるのでしょうか。
つまり、自然数の定義ですね。
これを数学者のジュゼッペ・ペアノが考案しました。
ペアノの公理
数学者ペアノは自然数の定義を、次の5つの公理として示しました。
① 自然数0が存在する。
② 任意の自然数 $a$ にはその後者が存在する。
③ 0はいかなる自然数の後者でもない。
④ 異なる自然数には異なる後者を持つ。
⑤ 0がある性質を満たし、 $a$ がある性質を満たせばその後者もその性質を満たすとき、
すべての自然数はその性質を満たす。
これをペアノの公理といいます。自然数はこの5つの性質を満たす数字の集まりだということです。
急に内容が難しくなっちゃったよ!?
そうです。簡単に扱うことができる自然数ですが、厳密に述べるとこのようになってしまいます。
しかし、このペアノの公理は見事に自然数の持つ性質を表しています。
では、公理をひとつずつ見ていきましょう。
ペアノの公理の持つ意味
① 自然数0が存在する。
この0は、皆さんの知っているゼロです。今回、自然数には0が含まれるものとして考えてください。
しかし、ここでは0の性質(1+0=1、1×0=0となる)には全く触れていません。
我々の知っている性質は無視して、0って形の記号だと思ってください。
この公理はざっくりといいますと、
ということを言っています。
② 任意の自然数 $a$ にはその後者が存在する。
「後者」という聞きなれない言葉がありますね。
厳密な話をすると、これはとある「写像」を表しています。
まあ、それは置いておきまして、ざっくりといえば、
ということです。
仮に数字を知っているとするならば、例えば「3の後者は4」、「6の後者は7」ってことですね。
自然数にはすぐ次の数字がありますよってことを示しているわけです。
③ 0はいかなる自然数の後者でもない。
これは意味が分かる人も多いと思います。
自然数の先頭が0ってことですね。どの自然数の後ろにも0はありません。
④ 異なる自然数には異なる後者を持つ。
これは非常に重要。いわゆる「単射」というものなのですが、
例えば、「2の後者が3、5の後者も3」とはなりません。
まあ、公理は置いておきまして、自然数の5のすぐ後ろは6ですから、3ではありませんよね。
このように、別々の数字ならばすぐ後ろの数字は絶対に被らないと言っているのです。
0→1→2→3→4→5→6→・・・
必ず自然数には順番があるので、ループしたり枝分かれしたりしないということです。
⑤ 0がある性質を満たし、 $a$ がある性質を満たせばその後者もその性質を満たすとき、
すべての自然数はその性質を満たす。
さて、高校数学を学習した方は見たことがあると思います。
そう、これは数学的帰納法です。
数学的帰納法の説明は省きますが、この公理があることで、数学的帰納法が正当化されます。
数学的帰納法が正しくなるように作られた数字ですよってことですね。
以上の5つの性質をもつものを自然数と定義したということです。
ちなみに、本当にこの5つの条件を満たした数の集まり(自然数の集合)が作れるかどうかは
数学者のジョン・フォン・ノイマンによって示されています。(フォン・ノイマンの構成法)
この話までするとなると、大学数学の集合論まで踏み込むことになるので割愛します。
ここまでのまとめ
さて、次回は「ペアノの公理というルール上で、足し算がちゃんと成立しているのか」をやってみます。
もちろん、「まだ0以外の数字は知らない」「ペアノの公理しか分かっていない」という前提です。
この手の証明に慣れていないと難しいと思いますので、覚悟しておきましょうね。
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